【感想】『新・観光立国論(デービット・アトキンソン著)』を読み解く

 

1.デービット・アトキンソン著 『新・観光立国論』とは?

『新・観光立国論』は、どうすれば、日本が観光立国になりえるかが論じられています。ちょうど東京オリンピックが決まり、日本国政府としても2020年までに訪日外国人を4,000万人迎えることを目標としている今だからこそ、多くの視点と気づきを与えくれます。

 

その中でも、「文化財」について描かれている部分を要約し、一つの解決策としての音声ガイドについて考えてみようと思います。

 

2-1.観光立国のためには文化財が一つのカギになる。~日本が文化財を利活用するべき理由~

アトキンソンさんは、日本が観光立国となるためには「文化財」で勝負するのが一つだと言っています。なぜなら、日本に様々な文化財が破壊されずに残っており、特にヨーロッパの観光客はそうした文化財に高い興味をもっているからです。

 

イタリアやフランスなどと比較したら少ないですが、日本は世界でも、かなり文化財が残っている国です。町を散策すれば、数百年前にできた寺や神社が残っていて、博物館へ行けば昔の人々がどのような暮らしを営んでいたのかが分かる資料が山ほどあります。
日本のみなさんからすると当たり前かもしれませんが、世界的に見れば、権力者が変わると前の政権の文化的な建造物等は破壊されてしまって、文化財がしっかりと残らないケースも多いのです。

 

(日本の文化財というのは)私たちのような欧米の人間から見ると、非常にユニークです。様式や歴史の解説から、職人の細かい仕事の話、模様の意味・・・・・・。・・・(中略)・・・詳しく解説を聴けば、ほとんどの欧米人が関心をもつのは間違いないのです。自分がこれまで生きてきたなかで出会った、どの文化とも違うからです。

 

また、ここで具体的なデータとして示されているのが、JTB総合研究所が「Japane-guide.com」でユーザーにアンケートを行ったデータです。これを見ると、「日本文化の体験」や「神社やお寺を訪れる」がアメリカ・ヨーロッパ・オセアニアの訪日外国人には人気であることが分かります。
その上で、日本の文化財の現状に対して、下記のようなコメントをしています

 

日本の文化財の現状について率直に言わせていただくと、「ただそこにある」というだけです。観光資源にふさわしい修理や整備はおろか、まともに利活用もされていないとい言わざるをえません。先ほどの食事のたとえで言えば、日本の文化財は主菜になります。ただ、現状の文化財はまともに調理されていないため、専門家が見ればそのおいしさがわかるとしても、観光客にとっては生の肉や魚を見せられているようなものです。そのおいしさがわからないため、高い評価をくだすこともありえません。これでは、お金を落とす気にはならないでしょう。

 

「ただそこにある」というだけ、とはどういうことでしょうか?

 

具体的な事例として、京都の世界遺産である二条城を訪れた訪日外国人の方が、Tripadvisorで、以下のようなコメントを残していることを指摘しています。

 

「世界遺産というからきてみたけれど、ただの箱だった」
「空っぽの部屋をみせられても、何がすごいのかわからない」
「もっと二条城が日本の歴史で果たした役割を説明してもらいたかった」
「もっと展示がないのは残念」

 

つまり、文化財としてはそこにあるけれども、その魅力は伝わっていない。その場所の魅力を体験できていない、味わえていないということです。

 

実際、僕がポーランドのアウシュヴィッツに行ったとき、音声ガイドが用意されていたので、その解説を聴きながら周り、そこで起きたことなどを想像し体験することができましたが、もし音声ガイドも何もなければ、それは難しかったように思えます。もちろん、そこで何が行われていたのか、なんとなく前提知識はありますが、そこに置かれているのは、ある意味ただの倉庫のような建物であり、一つ一つの空間で具体的にどのようなことが起きたのか、なぜ起きたのかなどについてを深く詳細に想像することは難しかったと思います


 

アトキンソンさんが言いたいことを要約すると、世界的に見ても、日本は文化財がたくさん残っている。特に、アメリカ・ヨーロッパ・オセアニアの人にとって、自分たちが今まで見たことのない、触れたことのないものだから、強い関心を持っている。だが、その魅力を十分に伝えられているか、体験してもらえているかという点において、至っていないことがたくさんある。だからこそ、文化財を整備することでの効果は大きなものになるのではないか。今後の観光立国としての日本を支える重要なカギになるのではないかということだと思います。

 

それでは、「文化財を整備する」とは具体的にどういうことでしょうか。

 

2-2.文化財の修復・保存作業をきちんと行うべき理由

「文化財を整備する」ことに対して、大きく2つのポイントをアトキンソンさんは指摘しています。その1つが、時間の経過の中で保存状態が悪くなっていく文化財を、見栄えも含めた修復・保存作業をきちんと行っていくことです。

 

たとえば、ふすま絵はきれいですが、戸の縁の漆塗りがほとんど消えてしまっていたりするなど、粗が目立ちます。また、観光客にとって、非常に大切な畳の手入れなどが行き届いていない文化財がほとんどです。

 

ヴェルサイユ宮殿を目的にして、フランス旅行を計画して、いざ現地に行ってみたら、調度品の痛みが激しく、いたるところで壁などが崩れていたら、落胆されるのではないでしょうか。それと同じく、日本の繊細な美を楽しむにして訪れる外国人観光客からすれば、これは大きな減点になってしまうのです。


 

アトキンソンさんが指摘していますが、日本とイギリスでは、文化財の保存修理予算が約6倍ほども違うそうです(日本は約81.5億円に対して、イギリスは約500億円)。また、お寺でいえば、氏子や檀家さんも減少していく現状は、保存・修復をさらに難しいものにしていると言えます。

 

観光客を増やす議論の際によく「発信力」が問題にされますが、発信したとしても、訪問した方が濃密に体験できる「何か」がないと、結局満足してもらえず、中・長期的に見て、観光客の足は遠のいてしまいます。そういう意味においても、そうした整備は必要です。

 

・・・あらためなくてはいけないのは、「京都と訪れる外国人観光客が少ないのは、京都の魅力をまだ十分に伝えられていないからだ。足を運んでもらえばきっとわかってもらえる」というような、根拠のない自信をもたないことです。
これは京都にかぎらず、すべての日本の観光地にいえることですが、観光客が少ないのは、残念ながらその観光地に、観光客を満足させられるだけのものがないという部分が多かれ少なかれあります。その点を改善せずに、すべての原因を「発信力」にもっていくというのは問題がありますし、いくら「目利き層」をつかまえて世界中に発信したところで、それが観光客数や観光収入という「結果」に結びつかないのであれば、何の意味もありません。

 

もし、しっかりと整備ができたとして、さて、それではしっかりと文化財を修復・保存という意味で整備すれば、それでいいのでしょうか?

 

それだけでは、やはり「ただそこにある」だけになってしまいます。

 

もう一つは、その文化財の魅力をしっかりと伝えるための整備が必要なのです。

 

2-3.文化財の魅力をきちんと伝えるべき理由

日本の神社仏閣に行っても、ほとんどが日本語表記のパンフレットしかなく、たまに英語表記のものがあっても非常に薄く、あまり内容に富んでいないのです。建物のなかを拝見しても、そこで何が行われ、どのように使われたのか、外国人にはさっぱりわかりません。
たとえば、茶室の場合は「tea-ceremony room」などという英語で説明があるだけで、器も茶釜もなければ、掛け軸や茶花する置かれていません。これでは、ここでどのように「茶道」というものが行われていたのかわかりません。単にその時代の建造物を冷凍保存して公開している、単なる「ハコモノ」になってしまっているのです。

 

アトキンソンさんも指摘しているように、文化財の魅力を伝える手段は、たくさんあります。パンフレットに、音声ガイド、展示パネル。最近のトレンドでは、ARやVRも使い方次第で、かなり面白いものが作れると思います。

 

なぜ、文化財の魅力を伝える努力をしなくてはいけないのかといえば、「ただそこにある」だけでは、魅力が伝わらないからです。

 

なぜ、伝わらないのか。

 

これは日本人であろうと、訪日外国人であろうと、その魅力を味わうための情報を持っていないからというのが一番大きな理由だと思います。また、訪日外国人の方は、そもそも違う文化圏を生きてきたため、日本人が前提としてなんとなく共有している知識・感覚もあまりないこと、そしてもう一つは、おそらく日本の文化や精神性のようなものの中には非常に捉えずらいものが多いからではないでしょうか。

 

そしてもう1つ解説の必要性を強調する理由は、日本の文化財はスケールもインパクトも相対的に小さいということです。・・・(中略)・・・エジプトに行ってピラミッドを見れば、その大きさに衝撃を受けます。中国の万里の長城もそうです。フランスのヴェルサイユ宮殿に行けば、その華麗さに目を見張ります。言葉はいらないというと大げさですが、その外観を見るだけで、そのすごさが伝わるものが多いのです。
しかし、日本の文化財には、そのような驚きはあまりありません。もちろん、外国人にも人気の東大寺の大仏など、その大きさに圧倒されるものもありますが、基本的に日本の文化財は、一見すると地味なので、よくよく聞くと「すごい」というものが多いのです。

 

何かを味わうためには、相応の知識や教養、スキルのようなものが必要です。「Pokkeの創っていく価値 〜聴けば、見えない世界が見えてくる〜」でも書きましたが、たとえば、能や歌舞伎を鑑賞するときに、背景知識があるのとないのとでは、見出せる楽しみの幅が大きく違ってきます。それは、文化財であっても同じだと思います。


 

そして、もう一つ。十分に味わうためには、本当の意味で、文化財の魅力を伝え、体験してもらうのであれば、それなりの情報量が必要です。このセクションの最初に引用にもあるように、非常に薄い情報量では伝わるものも伝わりません。

 

文化財のもつ魅力の一つは、文化財自体が長い歴史という時間の中で、経験した記憶をたぶんに含んでいるからではないでしょうか。だからこそ、多くの切り口に耐えることができ、また一つ一つにどこまでもいける深さがあるからではないでしょうか。

 

そのことを伝えようとおもったら、情報量が多くなるのは必然だと思います

 

2-4.「伝えるべきこと」と「伝え方」

・・・伝統芸能を外国人に見せるうえで、気をつけなければいけないポイントもあります。それは外国人だからどうせ難しいことはわからないだろうと、極端に簡略化しないことです。それは、これまでの「ガイド」や「おもてなし」のところでも述べたように、簡略化することで本来の意味が変わってきたリ、本当の意味を理解できなくなってしまうからです。
その一方で、あまり細かい方法論のようなことにもフォーカスしないことが大事です。たとえば、茶道ならば、お茶碗を2回回して飲むなどの作法を説明しがちですが、それが何のために行われれているものなのかが分からなければ、外国人にとっては意味不明の日本人の動作にしか見えません。外国人はやり方が知りたいのではなくて、その意味合い、楽しさが知りたいのです。建物ならば、専門家でなければどうやって建てたのかという建築技術より、なぜ建てたのか、何に使われたのかを知りたいと思う人の方が多いと思います。

 

前半の「簡略化せずに伝える」というのは、そもそも自分が海外に行った際にそうして欲しいと思いますし、表面的なことだけになってしまってはどうしても深い体験にはつながらず、なかなか本質的な魅力が伝わりにくくなってしまうからだと思います。

 

また、後半の「意味合いを伝えるべき」という点について、個人的な体験として、スペインに行った際に、友人に能や歌舞伎の映像を見せたことがありました。しかし、ただ映像を見ただけでは、なかなか何が凄いのか、何が面白いのかよくわからないといった顔をしていました。そこで、拙い理解とおぼつかない英語で、例えば能に関して言えば、「世阿弥という役者がいて、その人の書いた風姿花伝というのがある。そこには、年齢に応じた「花」の作り方・見つけ方が描かれている」と、そういう話をすると、ぐんと興味をもってくれて、いろいろと質問をしてくれました。

 

そして、もう一つ、伝えるときに大切なことは、「伝え方」だと思います。例えば、古事記の現代語訳を読むよりも、水木しげるの書いたマンガ「水木しげるの古代出雲」で読んだ方が、面白く、かつ理解しやすい方が多いのではないでしょうか。

 

もちろん、最終的には人による話なので、より多くの人に伝わりやすい伝え方を模索すると同時に、様々なニーズに分けて伝え方を用意するのが現実的な解なのではないかと思います。ただ、個人的に日本のさまざまな場所に行ったときの展示パネルなど、難しいなと感じることが多くあります。それは僕自身の知識がないことも大きいのですが、同時に伝え方の問題もあるのではないかと感じています。最近、ビジネスのシーンでは、「ユーザーファースト」などの言葉が取り上げられていますが、文化財の領域においても、(あまりに分かりやすくしすぎるのもまた違うと思いますが)もう少しその視点が必要だと思います。

 

2-5.ガイドは有料化すべき理由

そうした文化財の魅力を伝える一つの「ガイド」について、アトキンソンさんが指摘している、一つの重要な点があります。

 

・・・1つだけ間違ってはいけないというか、あらためなくてはいけない、根本的な考え方を指摘させていただきます。それは、できるかぎり「有料」にするべきだということです。・・・(中略)・・・なぜガイドでしっかりと収入を得なくてはいけないのかというと、文化財を維持するには、非常にお金がかかるからです。これからは、特に地方の神社仏閣の氏子、檀家は激減するので、地元だけで維持することはどんどん難しくなります。お金がなければ文化財としての魅力を維持できませんので、観光客もやってきません。入館料などの収入が落ち込むので、さらに維持が難しくなるという、悪循環に陥ってしまうのです。

 

きれいごとではなく、文化財を残していくには、現実問題としてお金がかかります。それに対して、しっかりと整備された文化財での、濃密な体験を促せるようなガイドコンテンツが、一つの解決策になりえます。


 

実際、僕自身も海外旅行に行くときには、ほとんど音声ガイドを利用しますし、名物ガイドさんがいる場合にはお願いすることも多いです。そして、そのことにお金を払うことはほとんどネガティブではありません。そもそもそれなりに高いお金を使って旅行しているので、それと比較すると小さなお金に感じてしまうこともありますし、そのガイドにかけただけの体験を味わえると経験的に感じているからだと思います。

 

特にヨーロッパでは、ガイドが充実しています。そうした文化圏で生活しているからこそ、日本に来たときにも、ガイドが用意されていれば、有料で、しかも多少高くても(もちろんコンテンツとして満足できるものになっていることが大前提ですが)積極的に活用してくれるのかもしれません。

 

重複もありますが、もう一度まとめると、
・世界的に見ても、日本には魅力的な文化財がたくさん残っている。

・特にアメリカ・ヨーロッパ・オセアニアの人は、自分たちのものとは違ったユニークな文化のものだから、文化財に強い関心を持っている。

・しかし、その魅力を十分に伝えられていない。体験してもらえていない。

・逆にまだまだ伝わっていないからこそ、文化財はしっかり整備することで、観光立国としての日本を支える重要なキーになりえる。

・そのために整備しなくてはいけないのは、文化財をきちんと修復・保存すること。

・もう一つの整備は、魅力を伝える媒体をきちんと用意すること。

・媒体の一つであるガイドは有料にするべき。それは、現地にお金が落ちて、それが文化財を修復・保存し、魅力を発信するための資金になりえるからだ。

ということだと思います。

3.音声ガイドプラットフォームアプリの可能性

自分たちの話になってしまいますが、僕らはこうした課題を音声ガイドプラットフォームとしての「Pokke」で僅かかもしれませんが、お手伝いできるのではないかと考えています。

 

そもそも音声ガイド自体に以下の特徴があります。

・空間を必要とせずに、多くの情報量を伝えることができる。
※紙媒体などで一定の情報量を、しかも多言語で伝えようとすると膨大な空間が必要になります。

・空間を必要としないので、景観が崩れることもない。
※特に、文化財になっているものは景観も重要な要素です。

・目や体は生のその場所を体験しつつも、言語情報で知識や想像力を補完できる。
※現地に来てまで、スマホの画面を見ながら巡るのは少しもったいないのではないでしょうか。

 

また、それがアプリであり、プラットフォームになっていることで、以下の特徴も生まれます。
・簡単に多言語対応ができる。

・どのガイドが聴かれたのか、その中でもどのセクションが聴かれたのかなどデータが取れるので、コンテンツを改善していきやすい。

・同じ場所でも複数のコンテンツを簡単に用意できる。

・GPS情報を取得できるので、街歩きなどの広域でもユーザーを誘導できる。

・プラットフォームになっているので、Aという文化財のガイドを聴いた人が、Bという文化財のガイドを聴く導線を作ることができる。

 

また、「伝え方」についても、新しい試みとして、現在、DJラジオ番組風のものと、シナリオ風のものを制作しており、2017年5月から6月にかけてリリースする予定です。より多くの人が楽しみながら、その場所を体験できるようなチャレンジをしていきます。

 

4.さいごに

この本を読んで、あらためて、文化財をどうしていくべきか、そこに対して音声ガイドという媒体はどのような役割を果たすことができるのか・果たすべきなのか、を考え直させられました。昔からある音声ガイドの良さを生かしつつも、この時代にあった何かをその上に積み上げたいと思いました。

 

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