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その旅に、物語を。

Pokkeインタビュー #0010

壮大な旅の証言がつないだ、二つの時代
特別展の見どころを解説
岡山市立オリエント美術館『大航海時代へーマルコ・ポーロが開いた世界ー』特別インタビュー

公立の美術館として国内で唯一オリエントを専門とする「岡山市立オリエント美術館」。

2023年9月16日(土)~11月12日(木)まで、天理大学附属天理参考館・天理図書館創立90周年特別展「大航海時代へーマルコ・ポーロが開いた世界ー」が開催されています。


歴史上初めて人や物、文化などの交流が地球規模で始まった、大航海時代。本展は、モンゴル帝国と大航海時代という2つの大きな時代をマルコ・ポーロ(1254-1324)と彼が残した旅行記『東方見聞録』から文化交流の姿を紐解いていく特別展です。

Pokkeインタビューでは、岡山市立オリエント美術館の学芸員・四角隆二(しかく・りゅうじ)氏に特別展「大航海時代へーマルコ・ポーロが開いた世界ー」の見どころなどを解説していただきました。

ゲストプロフィール

岡山市立オリエント美術館 学芸員

四角隆二氏

【公式サイト】岡山市立オリエント美術館

マルコ・ポーロがヨーロッパの人々に伝えた

「豊かなアジア」の姿

──現在開催中の特別展「大航海時代へーマルコ・ポーロが開いた世界ー」の見どころについて教えてください。

本展のタイトルにもある大航海時代は、歴史上初めて人や物、文化交流が全地球規模で始まった時代です。その波は遠く離れた日本まで到達し、南蛮文化として花開きました。

シルクロードの発展からモンゴル帝国時代の陸路による地域間交流から、大航海時代に海路の大陸間交流の姿を、奈良県天理市の天理附属天理参考館と天理図書館の所蔵品約200点から紐解いていきます。

また、モンゴル帝国と大航海時代という大きな2つの時代は、世界史でも大変有名な人物、マルコ・ポーロと彼が残した書物『東方見聞録』によって結びつけることができます。『東方見聞録』は大航海時代に活躍した人たちにとってのガイドブックであり、そこに描き出された富と黄金に満ちた東洋のイメージこそ、大航海時代を切り開く冒険心の原動力だったと言われています。

本展の鑑賞を通じて、彼らの夢と冒険の高揚感を追体験していただきたいです。



──非常にスケールの大きな特別展ですね。大航海時代を生きた人々にとって、マルコ・ポーロが残した書物『東方見聞録』は、ガイドブックだったということですが、そもそもマルコ・ポーロはどんな人物だったのでしょうか。また、大航海時代において彼はどんな役割を果たしたと考えられていますか。

マルコ・ポーロはヴェネツィアの商人の息子として生まれ、足掛け17年間中国に滞在していました。その時に彼が実際に見聞きした話を織り交ぜながら当時のアジア各地の姿を紹介した書物が『東方見聞録』です。

マルコ・ポーロの生きた時代、彼以外にも、ヨーロッパとアジアを往復した人物がいました。それが、プラノ・カルピニやウィリアム・ルブルックといったキリスト教の宣教師たちです。彼らもアジアの様子を残しているのですが、基本的にローマ教皇への「記録」、つまりは「報告書」です。ワクワクするような内容の報告書って見かけないですよね?

その一方でマルコ・ポーロは、実際に彼が見聞きしたアジア各地の様子を、『東方見聞録』の中で細かく証言しています。

元王朝初代皇帝であるフビライ・ハーンに仕えたマルコ・ポーロは、後宮の生活などもこの書物に残しています。このような「人間らしさ」、つまり、単なる記録ではない読みもののような楽しさがあるからこそ、マルコ・ポーロが特別な存在として今もなお語り継がれているのだと思います。

『東方見聞録』は、マルコ・ポーロが直接書いたわけではありません。ヴェネツィアに帰国したマルコは戦争捕虜となるのですが、獄中で出会った物語作家ルスティケッロに「口述筆記」させたものです。当時の作家特有の少し大げさな表現もあるのですが、物語的で面白い読み物になったのだと考えられています。



──なるほど。『東方見聞録』には物語的な面白さがあるということですが、大航海時代に重宝され、のちの世界史にも多大な影響を与えた一番の理由は何だと思いますか。

ヨーロッパでは栽培できないため高価だったスパイスが活発に取引される東南アジアのようすや交易で栄える中国、黄金の国ジパングと呼ばれた日本のように、当時のヨーロッパからは想像もつかない「豊かなアジア」を伝えたことが一番大きいと思います。

マルコ・ポーロの次の時代になると、イスラーム勢力の台頭により、スパイスの流通が妨げられるようになりました。それならば、直接産地に出かけてみようという発想が実行に移されるんですね。

『東方見聞録』で初めてヨーロッパに紹介された黄金の国ジパングのエピソードは、古代ローマ時代から伝わる「黄金の国伝説」と類似性があり、マルコ・ポーロが語った、高価なスパイスと「黄金が溢れるアジアの姿」というのは、遠く離れたヨーロッパに人々にとって非常に魅力的で、惹きつけられるものがあったのは間違いないと思います。

また、『東方見聞録』以降に出版された地図や地球儀に書かれている地名、特にアジアや中国に関する部分は、『東方見聞録』に記載された地名が数多く採用されています。17世紀にいたるまで、ヨーロッパ人のアジアに関する知識の多くは『東方見聞録』に負っている部分が大きいです。

15世紀には印刷術が発明されます。それまで手書きの写本だった『東方見聞録』も、印刷物となり、さまざまな人の手に渡るようになりました。こうした知識の拡散も、冒険者をお大海原に誘った要因のひとつでしょう。


ヨーロッパで確立された、
個の時代・ルネサンス

──ありがとうございます。マルコ・ポーロの時代からルネサンス期を経て、大航海時代へと向かう中でヨーロッパの国々では一体どのような変化があったのでしょうか。

ルネサンス期以前、ヨーロッパでは中世キリスト教の考えが支配的でしたが、14世紀以降、「人間性の復活」をめざすルネサンスの時代へと突入します。

西回りでインドへ向かおうとしたコロンブスや「アメリカ」の語源となったアメリゴ・ベスプッチ共に、ルネサンスが始まったイタリアの出身だったことは決して偶然ではありません。大海原に乗り出していったのは、宗教から解き放たれ確立された個人だったのです。


──なるほど。そんな「個の時代」である、ルネサンス期を象徴する作品はありますか。

ルネサンス期は、古代ギリシアやローマ彫刻がリバイバルし、キリスト教に排斥されてきた異教の神々の彫刻も復活しています。

今回の特別展に出品されている「ヘラクレス像」は、現存する数がとても少ないルネサンス期の彫刻作品です。

そのほか、「アレクサンドロス大王図皿(マジョリカ陶器)」も面白い作品です。


アレクサンドロス大王図皿(マジョリカ陶器)イタリア 16世紀 天理参考館

この時代は、キリスト教に加え、古代ギリシャ・ローマ文化への知識がイタリアを中心とする地域の知識人にとって重要でした。

このお皿には、アレクサンダー大王がアジアを超えて、メソポタミアに入る際にアキレウスという人のお墓にお参りをしたというエピソードが絵として描かれています。非常に美しいお皿ですが、このような「知的な」お題の皿を部屋に飾っておくことが、当時の教養人の間で流行したんですね。


グローバル化の始まり
海を越え、日本で花開いた南蛮文化

──大航海時代は全地球規模での動き、いわゆるグローバル化の始まりと考えられるようですが、他の時代との違いはどこにあると思いますか。

古代のシルクロード交易は、中継貿易と言って、バケツリレーのような形で物が移動しました。一方で、大航海時代の場合は船を利用しています。

船は物だけでなく「客人」も載せて運ぶことができます。カトリックの宣教師たちは海を渡り、地球規模での布教活動を開始しました。こうした人的交流により、貿易のあり方や文化交流の仕方についてもこれまでと違いが出てきます。

ラクダのキャラバンと比べ、船は運べる量が格段に多く、重量物も容易に運ぶことができました。ヴェネツィアやジェノバの商人の時代と比べ、ポルトガル船がインド航路で運んだスパイスは大量で、ポルトガルはスパイス交易の主導権を握ったのです。

大量の商品に加え、「客人」としての宣教師や知識人も運んだできたこと。これが大航海時代を特徴付ける大きな変化なのではないかと思います。


──ありがとうございます。異文化交流という点においては、日本でも南蛮文化が花開いたと思います。南蛮人との交流が日本にもたらしたものは何でしょうか。

1543年の鉄砲伝来や1549年のフランシスコ・ザビエルの来日など、ポルトガルやスペイン人の遠征は戦国時代の日本に大きな影響を及ぼしました。

まず鉄砲伝来は、戦争のあり方を大きく変えています。時の権力者であった織田信長は、宣教師によるキリスト教の布教を容認しているのですが、その背景には鉄砲や火薬の入手があったことは間違いありません。

そのほかにも、日本固有の文化と思われがちな三味線や唐辛子、天ぷら、カステラといった文物も、この時代に伝わったものです。


──この時代の世相をよく反映した作品をご紹介いただけますでしょうか。

この時代を象徴するのが「南蛮屏風」です。

左隻に黒船が停泊する港と商品の荷揚げ、右隻には都の風俗が描かれています。よくよく見ると、教科書でも習った「南蛮寺」と呼ばれる教会が描かれており、宣教師たちがいます。


南蛮屏風_右隻,南蛮屏風_左隻 天理図書館

屏風には、ヨーロッパやアフリカ、中国、日本など出身地の異なる人たちが323人も描かれています。

南蛮人と言われている人たちの着ている服装は、当時の日本では見ることのないタイプの織物だったり、アフリカ出身者とみられる人物が広げる反物をちょんまげ姿の日本人が品定めしている姿などが見受けられます。


現代に生きる私たちにとって、多様な考え方や見た目の人物が共存し、異文化が交流することは違和感のないことでしょう。こうした、グローバル化社会と言われる現代社会の始まりのようなことが、16世紀の日本で起きていたことを教えてくれる大変貴重な屏風となっています。


特別展「大航海時代へーマルコ・ポーロが開いた世界」で注目すべき資料を紹介!

──大航海時代が地球規模で展開されていることを改めて感じました。今回は約200点という膨大な数の資料が展示されていますが、いくつかご紹介いただけますでしょうか。

特権つきパスポート!?モンゴル帝国の通行証
成吉思皇帝聖旨牌子(パイザ)

一つ目は、モンゴル帝国の通行証「成吉思皇帝聖旨牌子(ちんぎすこうていせいしはいし)(パイザ)」です。


成吉思皇帝聖旨牌子(パイザ)中国 モンゴル帝国時代 13世紀前半 天理参考館

モンゴルには、ジャムチ(站赤)と呼ばれる駅伝制が敷かれていました。ジャムが道や駅、チは人という意味なので、ジャムチとは「駅に携わる人」という意味なのですが、一般的には駅伝制と訳されています。

この通行証を持っていると、飲食や就寝場所の用意、馬の世話をしてくれるといったようなシステムが構築されていました。現代社会に例えるとパスポートのような存在です。

「パイザ」は、現存するものが非常に少なく、世界でも数点しかない大変貴重なものです。「チンギスハン」の文字が刻まれた通行証には、歴史上の人物が実在した時代の交易に想いを馳せることができます。


当初、なかなか理解されなかった『東方見聞録』
大航海時代にはガイドブックの役割も!

次に、何度もご紹介していますが、やはり『東方見聞録』は外せません。『東方見聞録』にはさまざまな種類があるのですが、今回の特別展では、ピピノという宣教師がラテン語に翻訳したピピノ版『東方見聞録』を展示しています。


マルコ・ポーロ『東方見聞録(東方諸地域の慣習と状況に関する書)』(ピピノ版)インキュナブラ [ハウダ] 1484年頃刊 天理図書館

これは、ヨハネス・グーテンベルクが印刷術を発明してから間もないころの印刷物で、現存する部数も少ない大変貴重なものです。

ピピノ版『東方見聞録』をコロンブスは所持しており、赤い真珠や黄金というメモを残しています。その筆跡を見ていただくと、コロンブスが航海にでかけた目的を想像することができます(コロンブス所蔵品の複写版も展示)。


コロンブスが信じた世界を表現した地球儀
フォルペの地球儀

最後に紹介するのは「フォルペの地球儀」です。


フォペル[地球儀] ケルン 1536年製 天理図書館

この地球儀は、コロンブスの世界観が反映された大変興味深いものと言えます。

コロンブスは、地球は球体であり、スペインを出発し西へ進めば最短距離でアジアに辿り着くと考え、西回り航路の航海計画を立てました。

実際、彼は黄金の国ジパング(日本)には辿り着いていないのですが、カリブ海にあるイスパニョーラ島という島に「ジパング(日本)」の記載が残されています。つまり、コロンブスはアジアに到着したと思っていて、その世界観が地球儀に反映されているんです。

一方、南米大陸は、独立した大陸として認識されているので、『東方見聞録」の知識と新しい知識が混ざり合って作られた地球儀ということになります。

現代に生きる私たちから見ると、間違った地球儀ということになるかもしれませんが、当時の人々の戸惑いが感じられるとても「人間らしい地球儀」だと思います。


大航海時代の高揚感を追体験で

──ありがとうございます。どの資料も大変興味深いですね。マルコ・ポーロや大航海時代について、さらに興味を持っていただけるようなおすすめの書籍などはありますか。

マルコ・ポーロについては、比較的簡単なものから専門書まで、多くの書籍が出版されていますので、それぞれの知識や興味関心に合わせて選んでいただければ楽しく読み進められると思います。

本展に限って言いますと、シルクロードから大航海時代まで、スケールの大きな特別展ということもあり、いずれも教科書で習ったキーワードが展示会場では、散りばめられています。ですが、シルクロードや大航海時代は日常生活に馴染みのある事柄ばかりではありません。

そこで、当館が独自に作成した漫画『大航海時代へ』はおすすめです。本展で展示している資料を分かりやすく学んでいただこうと、図録を優しく嚙み砕いた一冊で、価格も500円とお求め易くなっています。

当館ミュージアムショップのみの取り扱いなので、展覧会に足を運んでいただいて、音声ガイドを聞きながら楽しんでもらった帰りに、ミュージアムショップで漫画『大航海時代へ』を購入するということを一つのコースとしておすすめしたいです。


──ありがとうございます!ぜひ現地で直接手に取って見てほしいですね。最後になりますが、改めて本展に来館される皆さんにメッセージをお願いいたします。

本展は、扱う地域も年代も非常に幅広い展覧会です。紹介している事柄はどれも教科書で習った記憶のあるようなものが展示各所に散りばめられていますので、シニアの方から歴史に興味関心のある学生まで、「大航海時代」という社会の成り立ちを理解していただけると思います。また、漠然としていた知識の「こことここが繋がるんだ」という発見が、この特別展の楽しいところです。

展示を目で見て楽しみ、耳から音声ガイドに導かれ、冒険者たちを大海原にいざなった10種類ほどのスパイスの香りを嗅いでみると、大航海時代の高揚感を五感(のうちの三感?)で追体験いただけることでしょう。

秋のお出かけの一つとして、ぜひお気軽にいらしてください。


========================================= 会期:2023年9月16日(土)~2023年11月12日(日)
会場:岡山市立オリエント美術館
所在地:〒700-0814 岡山市北区天神町9-31
アクセス:JR岡山駅東口より路面電車「東山」行きで約5分、「城下(しろした)」下車すぐ。JR岡山駅東口より徒歩15分 ※来館者用の駐車場なし、市営天神町駐車場をご利用の場合は割引券(1台1回につき100円)を交付

開館時間:午前9時~午後5時(入館は午後4時半まで)
休館日:毎週月曜日(月曜日が祝日の場合は翌平日)、展示替え期間(随時)、年末年始(12月28日~1月4日)
入館料(特別展「大航海時代へ―マルコ・ポーロの開いた世界ー」):【当日券】一般1,200円、満65歳以上1,000円、高大生800円、小中学生500円【前売り券】一般1,000円、満65歳以上800円 
※20名以上の団体は各当日料金から200円引き、その他の割引きはお問い合わせください。
※障害者手帳をお持ちの方とその付き添いの方1名は無料
電話番号:086-232-3636
▼岡山市立オリエント美術館HP
https://www.city.okayama.jp/orientmuseum/index.html
▼特別展「大航海時代へーマルコ・ポーロの開いた世界ー」特設サイト
https://www.rsk.co.jp/event/marco_polo/
▼音声ガイド
https://jp.pokke.in/totheageofexploration/
▼体験記事
https://jp.pokke.in/story/17462/
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