華やかなパリを表すオペラ座、ガルニエ宮の見どころ
圧巻の豪華さに心奪われる
19世紀パリ。
ベルエポック、日本語で「美しい時」と呼ばれるこの時代を代表する建物がこのガルニエ宮、パリ・オペラ座です。
オペラ座の建設が開始されたのは1860年、ナポレオンの甥にあたるナポレオン3世がパリの街の近代化に取り組んでいた時代です。
ガルニエ宮はオペラやバレエを鑑賞する場所であったと同時に、上流階級の人たちの社交の場でした。
時には鑑賞よりもおしゃべりに夢中だった人たち。
ガルニエ宮はそれを考慮に入れて設計されています。
その最初の象徴ともいうべきなのが、観覧席へと続く大階段です。
白の大理石の階段に緑と赤の手すりが付いています。
階段の一段一段を見ると、通常の階段より低いのがわかります。
これは裾の長いドレスにハイヒールという衣装で来場する女性たちを意識して作られました。
ここには新聞記者たちが集まり、今日は誰が来場してどんな衣装を着ていたか、誰が一番おしゃれだったか、などの記事がパリ中に出回りました。
今でいうとハリウッドのレッドカーペット。
花形の女性たちはこの階段を2、3段上がっては誰かと挨拶を交わし、また2、3段上がっては記者の声に振り返り、とここからショーは始まっていたのです。
このガルニエ宮においての主役は舞台とその出演者だけではありません。
観客も社交界の華として出演者に負けず劣らず、時にはそれ以上に主役だったのです。
天井は約30m。天井には「アポロンの勝利」が描かれています。
階段は途中で二手に分かれており、観客席へと続きます。
緩やかな階段の高さと緩やかな曲線はちょうどこの頃流行し始めたアールヌーヴォーを予期させるものです。
手すりの一番下には女性の彫像がランプを持っています。
19世紀後半は新しい技術が発明され始めた時期。
完成から6年後の1881年には電気が灯りとして使用されるようになりました。
「オペラ座の怪人」は1909年にガストン・ルルーが書いた小説です。
その後、ミュージカルや映画で演じられ有名になりました。
歌姫クリスティーヌに恋をしたオペラ座の怪人の恐ろしくも悲しい恋を描いた物語。
ルルーは実際に起きた事件にヒントを得てこのストーリーを作りました。
シャガールの描いた色鮮やかな天井から大きなシャンデリアが吊り下がっています。
高さ8m、重さ7トンとも8トンとも言われるこのシャンデリアは、建築家ガルニエ自身のデザインによるもの。
当初はガスが使用されていたシャンデリア、1881年に電気に変わり、今でも340ものクリスタルが輝きます。
当初、これほど大きなシャンデリアが観客席の真ん中に吊り下げられると、4階の最上級席の観客が舞台を見られないのではないかとの批判を受けました。
しかしガルニエは自身の著書「ル・テアトル」でシャンデリアがもたらす豪華さを説き、観客席をより豪勢に仕立て上げたのです。
さてこのシャンデリアですが、1896年5月20日に大事故が起きます。
シャンデリアは天井を通して反対側についている重りによって上げ下げが出来ます。
8本のワイヤーが使用されていたのですが、長年の使用により、電気コードから火花が出てワイヤーを燃やしてしまったのです。
観客席に座っていた熱心なオペラファンが犠牲になりました。
新聞記者でもあったガストン・ルルーは、この事件をドキュメンタリー風に小説に仕上げたのです。
この大きなシャンデリアが落ちてきた様は当時観劇していた人たちを恐怖に陥れたとことが想像できます。
ルルーはその恐怖をさらにミステリーに仕上げて盛り上げたのです。
地下の貯水池や屋根裏など、ガルニエが設計した複雑なオペラ座をルルーは研究し尽くしてこの小説に凄みをもたせたそうです。
テレビがない時代、ここはまさに流行とゴシップの中心地。
音楽を鑑賞するだけでなく様々な芸術作品の主題ともなりました。
ちょうどガルニエ宮が出来た頃はパリで印象派が活躍しだした時代でした。
ルノワールは「ラ・ロージュ」という作品でボックス席に座る男女を描いています。
後ろの男性はオペラグラスで舞台ではなく観客席に目を向け、前に座る女性は逆に他の席から見られる存在であることが強調されます。
「観客も主役」というガルニエ宮の性格を、同時代の絵画が証明しています。
同じ印象派の女性画家、メアリー・カサットもやはり「ロージュの中」という作品で、観客の女性が見られる側であると同時に見る側であることを描きました。
この時代のもう一つの特徴として、女性が主役になったことが挙げられます。
その中には舞台のバレリーナたちも含まれます。
そしてそんなバレリーナたちを数多く描いたのがドガです。
このパリにあるオルセー美術館にある作品「エトワール」でドガはガルニエ宮の舞台で踊るバレリーナを描いています。
オペラ座が好きで定期利用者券を購入していたドガは、舞台の上の彼女たちだけでなくリハーサルの場面や舞台裏も描いています。
当時、定期利用者券を購入していた人たちは楽屋の見学をすることができました。
ドガはそれを利用して練習中のバレリーナの姿を作品にしています。
またオペラ座側も2003年、彼の作った彫刻「14歳の小さなバレリーナ」を元に作ったバレエ作品を上演しました。
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