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美術鑑賞本10冊を読んでわかった、絵画の見方ランキング

【Part.2】西洋美術編



「美術鑑賞本10冊を読んでわかった、絵画の見方ランキング」では、美術鑑賞の本10冊の重複するポイントをまとめ、美術鑑賞する前、西洋美術、日本美術、現代美術の4つのパートにわけてご紹介します。記事を通して、絵画を見る時、どのようなポイントに注目したら良いのか、どのように行うとわかりやすいのかをご紹介します。

美術鑑賞本10冊を読んでわかった、絵画の見方ランキング

1. 西洋美術の鑑賞のポイントをご紹介

前回は美術鑑賞をする前に知っておくことをご紹介しました。

今回は西洋美術編です。

西洋美術の絵画の鑑賞をするポイントをまとめてご紹介します。

2. 絵画の見方ランキング 西洋美術編

西洋美術編は、鑑賞ポイントと同列に、画家(アーティスト)を交えてランキング形式にまとめました。


1位 ポール・セザンヌを知る 5票
2位 レオナルド・ダ・ヴィンチを知る 4票
2位 クロード・モネを知る 4票
2位 パブロ・ピカソを知る 4票
5位 ミケランジェロを知る 3票
5位 ラファエロを知る 3票
5位 ヤン・ファン・エイクを知る 3票
5位 カラヴァッジョを知る 3票
9位 宗教画が描かれた理由を知る 2票
9位 光の表現に着目する 2票
9位 作品を「読んで」みる 2票
9位 西洋美術のルーツを知る 2票

1位 ポール・セザンヌを知る

セザンヌという名に馴染みのない方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、セザンヌは「近代絵画の父」と呼ばれており、西洋美術史では欠かせない重要なアーティストです。

セザンヌ自身はフランス生まれ。
後期印象派に属しており、次の時代の美術様式に当たるフォービズムへ影響を及ぼしました。

フォービズムにはピカソやマティスといった偉大なアーティストが参加し、「キュビズム」などの美術様式が生まれる前身となります。

セザンヌの作品に《サント・ヴィクトワール山とサント・ノワール》という絵画があります。

注目すべきは画面構成と色彩と筆致(タッチ)です。
画面はサント・ヴィクトワール山を中心に台形を中心に構成。

色彩は青を中心に。
まるで塗っている姿が眼に見えるほどの筆致を残しています。

セザンヌは対象全てを自分自身の頭の中で構成し、画面上で組み立てているのです。


「セザンヌが描いた風景画、静物画、人物画はいずれもこれまでの絵画とは違い、そこに描かれている物語のストーリーやどんな人物なのかを解するのではなく、彼がどのようにして対象を表現しようとしたのかを探ることが鑑賞の秘訣となります」

                出典:青い日記帳『いちばんやさしい美術鑑賞』,2018年,ちくま新書,p.78

セザンヌの類稀なる構成力と絵画を楽しむ姿が、その後の美術に影響を及ぼしました。


2位 レオナルド・ダ・ヴィンチを知る

言わずと知れた有名なアーティストです。

画家以外にも科学者、工学者、医師…といった様々な技能を持ったレオナルドは、世の人々がイメージするカリスマそのものです。

レオナルドは西洋美術史におけるルネサンスの時期に活躍しました。

ルネサンスとは復興という意味。
ルネサンス以前の美術はプラトン主義とキリスト教的考えに基づき、現実に模倣する描き方からあえて遠かった描き方をしていました。

ルネサンスは主にイタリアで起こり、人文主義の立場から、再度現実に基づいたリアリティのある表現を復興させました。

イタリア生まれのレオナルドがこのルネサンス期に編み出したのは一点透視図法。

そしてスフマートです。

最後の晩餐》は完璧な一点透視図法の絵画であり、場の臨場感を演出しています。

モナ・リザ》は輪郭をあえて指でぼかし、立体感を出したスフマートという技法で描いた作品で、女性の柔和な表情がよく出ています。


2位 クロード・モネを知る

モネは印象派を代表するアーティスト。

印象派とは、絵を評価していたサロンで使われていた蔑称からきています。

当時よしとされていた絵画は表面にテクスチャや筆致を残さない、フラットな画面の絵画。 対して印象派は絵筆の筆致や絵の具のテクスチャを存分に残しています。

モネがサロンに展示した《印象・日の出》は痛烈に批判され、「印象を描いてるにすぎない」と言われてしまいます。

《印象・日の出》は、朝靄の海に浮かぶ小舟と工場地帯、そこに現れる霞んだ太陽が描かれています。

空気遠近法で遠くに浮かぶ工場地帯は薄く、手前の小舟は濃い色で描かれています。

また、筆致は完璧に残っています。 特に水面に映る太陽の光は、オレンジと白の絵の具が混ぜられずそのまま残っています。

当時、写真技術が発達し、写実を極めるなら写真が一番だと考えられました。

印象派のアーティストは写真ではなく、絵画にしかできない表現を追求していったのです。

また、モネは印象派の誰よりも光の表現にこだわったアーティストです。


「モネは、連作という方法を使って、同じ場所や物を何度も繰り返し描きました。モネは、異なる天候や時間のもとで、どのように光が変化し、物の見え方が変わるかを、連作を通じて描き分けようとしています。」

                出典:佐藤晃子『この絵、どこがすごいの?名画のルールと鑑賞のルール』,2012年,新人物従来社,p.80

光によって変わる物の表現を追求するために、《睡蓮》などの連作を多く残しました。


2位 パブロ・ピカソを知る

ピカソもレオナルドと同じく、非常に有名なアーティストです。

ピカソはスペイン生まれで、幼い頃から絵画の才覚を現し、12歳の頃にはすでに写実的なデッサンを習得していました。

ピカソは「青の時代」「バラ色の時代」を経てキュビズムを確立します。

キュビズムがよく表れた作品は《アヴィニョンの娘たち》です。

タイトル通り娘たちが存在するのは分かりますが、幾何学的な輪郭をした娘たちはまったく現実とはかけ離れた姿です。

キュビズムは箱を解体し広げるように、対象を一度解体し画面上で再構成します。

セザンヌの画面構成をさらに発展させているのです。

ピカソはキュビズムだけではなく、時代ごとに美術様式が変遷していくのも特徴です。

「新古典主義」を取り入れた《海辺を走る二人の女》。
「シュルレアリスム」を取り入れた《ゲルニカ》。

ピカソもまたカリスマ的アーティストとして世界中に知られています。


5位 ミケランジェロを知る

ミケランジェロはレオナルドと同じく、ルネサンスの時代を生きたアーティストです。

レオナルドとはライバル関係にあったと言われることも多いですが、レオナルドとは年が離れており、あまり接点はなかったようです。

ミケランジェロは人体に非常に拘りがありました。

《ダヴィデ像》という彫刻作品からは、筋肉隆々としたダビデの肉体美を感じます。

システィーナ礼拝堂のフレスコ画《最後の審判》では、天国でも地獄でもない煉獄でイエスが最後の審判を行う場面を描いています。

ここに描かれた人々の体には躍動感があり、当時ミケランジェロは賞賛を浴びました。

一方で、それまで描かれなかった裸体を描いたことから、批判も同じくらいあったようです。

ミケランジェロは、フレスコ画という技法を気に入り、よく使用しました。

フレスコ画は漆喰を下地にして、乾く前に顔料で手早く描く技法です。 早く正確な描写が求められ、乾くと頑丈になります。

ミケランジェロもまた、ルネサンスを支えた一人のアーティストなのです。


5位 ラファエロを知る

ラファエロもルネサンス期のアーティストの一人です。

ラファエロの代表作の一つは《小椅子の聖母》。
柔和な表情の聖母子と、愛らしい幼児がとても魅力的な絵です。

もう一つの代表作はヴァチカン宮殿内の《アテネの学堂》。

中央にいる人物二人に向かって水平線が描かれ、目立たせています。

中央にいる人物はプラトンとソクラテスです。 プラトンのモデルはレオナルド、ソクラテスのモデルはミケランジェロで、それぞれ天と地を指しています。

ラファエロはレオナルドとミケランジェロから技術を学び、その長所を取り入れ、融合させたと言われています。

レオナルドからはスフマートや一点透視図法の技法
ミケランジェロからは肉体などの表現力
ラファエロはルネサンス期の集大成とも言えるアーティストなのです。


6位 ヤン・ファン・エイクを知る

ヤン・ファン・エイクはネーデルラントのアーティストです。

ヤン・ファン・エイクはルネサンス期のアーティストで、兄のフーベルトとともに油彩画の技法を確立させた画家だと言われています。

従来のテンペラ画と呼ばれる卵黄を顔料に混ぜる技法に、天然油を混ぜた絵の具を使用していました。

ヤン・ファン・エイクの代表作は《アルノルフィーニ夫妻の肖像》です。

非常に謎めいたこの絵には「貞節」を表す犬や、「婚姻」を象徴する蝋燭などが描かれ、結婚の誓いをしている場面だと考えられています。

また、シント・バーフ大聖堂にあるフーベルトとの合作《ヘントの祭壇》も傑作だと言われています。

開閉できる複数のパネルには受胎告知、神秘の子羊の場面が描かれています。

風景画があまりなかったこの時代、美しく風景が描かれているのが特徴です。


5位 カラヴァッジョを知る

ミリアムとアイラ D. ウォラック芸術、版画、写真部門: 版画コレクション、ニューヨーク公共図書館。「カラヴァッジョ – その他」 ニューヨーク公共図書館のデジタル コレクション。 https://digitalcollections.nypl.org/items/510d47de-4ec0-a3d9-e040-e00a18064a99


カラヴァッジョはイタリア・ミラノ出身のアーティストです。

カラヴァッジョが生きた時代はバロック美術という美術様式が主流です。 バロック美術の誕生はプロテスタントに対抗するカトリックの運動が背景にあります。


「カトリックの教えを絵に反映させ、見る者の感情を動かすために劇的な演出や過剰な装飾などが追求された」

                出典:宮下規久朗『世界の一流が必ず身につけている西洋美術の見方』,2019年,宝島社,p.82

カラバッジョがバロック美術における演出や装飾で追求したのは光と影の表現です。

《ゴリアテの首を持つダヴィデ》という作品を見てみましょう。

陰影で立体感を出す技法をキアロスクーロといいますが、カラヴァッジョはこの表現を一気に掘り下げ、劇的な効果を作り上げました。

そのため、静物画や風俗画も描いていましたが、宗教画を描くようになってからは非常に人気のあるアーティストになりました。


9位 宗教画が描かれた理由を知る

西洋絵画はキリスト教の宗教画が圧倒的な数があり、そのまま美術史として成り立っています。

宗教画が描かれた理由は大きく分けて2つ。

1つは、宗教画が『聖書』の文字の読めない人々に対して神の教えを説くツールだったこと。

現代のように識字率が高くはなく、娯楽もありふれていなかった時代、宗教画を目の前にした民衆が感動するのは想像に難くありません。

もう1つは、アーティストの顧客であった王侯貴族にとって聖書の内容が人気だったことです。

聖書には主題にあたる名場面がたくさんあり、お気に入りの場面が発注されました。

アーティストも売れる主題を把握して描いていたと考えられます。


9位 光の表現に着目する

西洋絵画において、光の表現はとても大事です。

カラヴァッジョの《ゴリアテの首を持つダヴィデ》の重要な劇的表現としてキアロスクーロを先述しました。

カラヴァッジョと同時代を生きたラ・トゥールというアーティストの《大工の聖ヨセフ》もご覧ください。

少年時代のキリストとその父ヨセフが暗闇の中で蝋燭に照らされています。 巧みにキアロスクーロを取り入れつつ、非常に静謐な様子が伝わってくる光の表現です。

その後、モネが描いたように、印象派によって光の表現はさらに研究されていきます。

劇的な陰影をつけたバロック美術の時代と、技術が進み違う光の表現を取り入れた印象派の時代。

光の表現に着目することも、西洋美術の鑑賞において重要です。


9位 作品を「読んで」みる

前回の記事でもご紹介しましたが、作品を「読んで」みると西洋美術の鑑賞が楽しくできるようになります。

作品の主題や描かれたモチーフからどういった意味が込められているのかを考えてみましょう。

西洋絵画における主な主題を少し解説していきます。

●『旧約聖書』
世界の起源や人類の起源についてのエピソードが絵画として取り入れられている。

主なキーワード…天地創造/エヴァの創造/原罪と楽園追放/カインとアベル/バベルの塔

●『新約聖書』
イエス・キリストの生涯における神秘的なエピソードが絵画になっている。

主なキーワード…受胎告知/東方三博士/サロメと洗礼者ヨハネ/最後の晩餐/磔刑/キリストの復活/聖母子とピエタ/最後の審判/三位一体

●『ギリシャ神話』
ギリシャ神話の中でも嫉妬や恋愛など人間臭い神々のエピソードが絵画に取り入れられている。

主なキーワード…サトゥルヌス/アポロンとダフネ/ピュグマリオン/ヴィーナスの誕生/パリスの審判

●シンボルとアレゴリー
抽象的な概念をモチーフで表す絵画。シンボルは一つで意味を持つ。アレゴリーはシンボルの集合体で絵全体で意味を読みとる。

花と果実…純潔。
太陽と月…輪廻転生。
ファム・ファタル…破滅をもたらす魔性の女。
ヴァニタス…虚しさ、儚さ。骸骨や時計など。

駆け足となりましたが以上の主題をなんとなくでも覚えておくと、作品を深く読み取るヒントになると思います。


9位 西洋美術のルーツを知る

ジョージ・アレンツ芸術、版画、写真部門: 版画コレクション、ニューヨーク公共図書館。「アポロ・ディ・ベルヴェデーレ」 ニューヨーク公共図書館のデジタル コレクション。 https://digitalcollections.nypl.org/items/5e66b3e8-a929-d471-e040-e00a180654d7

西洋美術のルーツというのは、主にルネサンス以前の美術史のことを指します。

古代の基準作と言えるのはギリシャ彫刻

その中でも《ベルヴェデーレのアポロ》という彫刻が参照されることが多いです。 この《ベルヴェデーレのアポロ》こそが、ルネサンスが目指した復興だと言えます。

中世美術ではキリスト教が偶像を否定したため、あまり三次元の彫刻などは流行らなくなります。

11世紀ごろのロマネスク美術は山の美術と呼ばれます。 ロマネスク時代には彫刻が復活し、教会の装飾に使われるようになりました。

次の時代のゴシック美術は都市の美術

ステンドグラスが発展したり、ランス大聖堂の彫刻群のように、自由な彫刻がつくられ、さらに建築との調和も重視されました。

ルネサンス以前の美術は、キリスト教が偶像崇拝を否定した影響で、絵画というより装飾や彫刻が中心でした。


3. 西洋美術編は印象派とルネサンスがカギ!

西洋美術編はいかがでしょうか。

まとめてみると、印象派とルネサンスの時期の画家に非常に多くの票が集まりました。それだけ印象派とルネサンスが美術史に大改革をもたらしていたことがわかります。

印象派とルネサンスだけでも覚えておくと、美術鑑賞をするうえで困ることは少なくなりそうです。

また、レオナルドを抑えてセザンヌが1位になったのは、筆者としては意外な結果でした。

セザンヌは近代絵画の父であり、西洋美術史における重要なアーティストですので、ぜひ皆さんに存じ上げていただけたらと思います。

次回は日本美術編に入ります。

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2. 美術鑑賞本10冊を読んでわかった、絵画の見方ランキング Part.2西洋美術編 | https://jp.pokke.in/story/15898

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