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美術鑑賞本10冊を読んでわかった、絵画の見方ランキング

【Part.3】日本美術編



「美術鑑賞本10冊を読んでわかった、絵画の見方ランキング」では、美術鑑賞の本10冊の重複するポイントをまとめ、美術鑑賞する前、西洋美術、日本美術、現代美術の4つのパートにわけてご紹介します。記事を通して、絵画を見る時、どのようなポイントに注目したら良いのか、どのように行うとわかりやすいのかをご紹介します。

美術鑑賞本10冊を読んでわかった、絵画の見方ランキング

1. 日本美術の鑑賞のポイントをご紹介

前回は西洋美術編の鑑賞ポイントをご紹介しました。

今回は日本美術編です。

日本美術における絵画の見方をランキング形式でまとめます。

2. 絵画の見方ランキング 日本美術編

西洋美術編は、鑑賞ポイントと同列に、画家(アーティスト)を交えてランキング形式にまとめました。


1位 伊藤若冲を知る 4票
1位 葛飾北斎を知る 4票
3位 長谷川等伯を知る 3票
3位 雪舟を知る 3票
3位 実物を見ることを大事にする 3票
5位 上村松園を知る 2票
5位 尾形光琳を知る 2票
5位 狩野永徳を知る 2票
5位 源氏物語絵巻を知る 2票
5位 円山応挙を知る 2票

1位 伊藤若冲を知る


伊藤若冲は18世紀後半の江戸時代に活躍した日本画家

京都の青物問屋の家業を引き継ぎつつ、絵を描いていました。

同時代の京都にはのちに解説する円山応挙や、文人画で有名な与謝蕪村らがいます。

若冲はこうした同時代の画家と比べると非常に独特な絵を描いています。

《南天雄鶏図》という作品をご覧ください。

南天の花や葉、雄の鶏が精密に描写されています。

専門家から言い換えてみると、「執拗」とも言えるようです。

その理由はこのような箇所にあります。

「南天の葉をよく見ると、その葉のほとんどに丸い染みのようなものがあり、それらが病葉であることがうかがえます。」

                出典:佐藤晃子『この絵、どこがすごいの? 名画のひみつと鑑賞のルール』,新人物往来社,2012年,p.142

本来、花鳥画はおめでたいテーマです。

しかし若冲はこの南天の葉が病気である様子も描き込んでいます。

本来なら若く綺麗な葉を描く花鳥画というテーマに惑わされず、若冲は自身の独特の感性で描いているのです。

伊藤若冲の精密で独特な描写をよくご覧になってみてください。


1位 葛飾北斎を知る


葛飾北斎は世界中に広く知られている、江戸時代の浮世絵師です。

浮世絵は今で言う週刊誌的な存在。

画家が描いた下絵をいくつもの木版で写し、印刷して販売されていました。

様々な浮世絵師が存在していましたが、北斎が卓越していたのはその表現力だと言えます。

北斎の絵のなかで一番有名なのは《東海道五十三次 神奈川沖浪裏》ではないでしょうか。

皆さんも一度は見たことがあるはずです。

大きな津波の飛沫が見事に描かれ、いきいきとした表現になっています。

ベロ藍という染料による、美しい真っ青な色使いも特徴。

「ベロ藍は若冲なども使用していますが、大衆に向けた商業的な作品にベロ藍を使用したのは北斎が初めてでした。」

                出典:秋元雄史『一目置かれる知的教養 日本美術鑑賞』, 2019年,大和書房,p.158

西洋の画家に浮世絵が輸入され、ジャポニズムがブームになった時、北斎の絵は人気を博しました。

ゴッホモネといった印象派の画家が北斎の絵を真似しています。

類稀な画力を持っていた北斎は他にも浮世絵をたくさん残しています。

江戸時代の庶民文化・浮世絵を代表する北斎の作品は必見です。



3位 長谷川等伯を知る

長谷川等伯日本画家

安土桃山時代から江戸時代初期にかけて活躍しました。

千利休豊臣秀吉らに重宝され、当時画壇のトップだった狩野派と対抗する存在に。

等伯は水墨画金碧障壁画の両方に優れており、独自の画風を獲得しています。

代表作は国立博物館に収蔵されている《松林図屏風》。

水墨画の最高到達点とも称され、もやの中にふと現れる松の木と、奥に見える雪山によって、空間の奥行きを感じさせています。

もうひとつの代表作は京都智積院に所蔵されている《楓図》。

豊臣秀吉の愛児、鶴松の弔いのために制作された金碧障壁画です。

秀吉の好みに合わせた楓の巨木の表現に、弔いにふさわしく色とりどりの葉を描き入れています。

等伯の水墨画と金碧障壁画をインプットし、美術鑑賞に生かしてみましょう。

3位 雪舟を知る

雪舟は、室町時代に活躍した水墨画家です。

禅宗にも精通し、僧侶でもあります。

雪舟は中国(当時の明)へ画を学びに留学したこともある実力派です。

雪舟の国宝指定作品は6作品と、日本美術の画家の中では最多。

国宝指定作品の一つである《天橋立図》をご覧ください。

重量感のある手前の山々と、間にある木々と神社仏閣が力強い線で描かれています。

背景にある霞がかった山は薄墨の表現。

非常に見応えのある作品です。

紙の貼り合わせの荒さやメモのような書き込みがあることから、下絵である可能性が高いと言われていますが、それでも存在感があります。

雪舟の生涯にはわからない部分が多く、創作された逸話が多いと考えられています。

のちの狩野派によって神格化され、大名がこぞって雪舟の作品を求めたことから、贋作が多く作られたことでも有名です。

狩野派長谷川等伯に影響を及ぼした雪舟の作品を覚えておくとよいでしょう

3位 実物を見ることを大事にする

改めて「実物を見ることを大事にする」が日本美術編にランクインしました。

日本絵画は油絵の具ではなく岩絵具と墨汁を使用します。

岩絵具と墨汁を膠で十分に練り、水で広げる塗り方です。

そのため、西洋絵画の近代以前のフラットな画面や、印象派以降の絵の具の盛り上がった絵画とは全く違います。

油絵のように後から描き直しすることはほぼできません。

その代わり、伊藤若冲のように、繊細な表現が得意です。

これを細画と言います。

しかし、長谷川等伯のような、西洋絵画に負けず劣らずのダイナミックな表現も可能です。

これを大画と言います。

また、劣化の激しい日本絵画は、実物を目にする機会が少ないのも特徴です。

何十年かに一度、一ヶ月程度しか展覧会の会期を設けられない作品が多くあります。

ぜひ日本絵画を実際に目の当たりにする機会を大切にして頂けたらと思います。


5位 上村松園を知る


上村松園は全ての美術鑑賞の記事中で紹介する唯一の女性です。

松園は明治時代、京都生まれの日本画家。

美人画を得意とし、数々の傑作を残しています。

東京藝術大学所蔵の《序の舞》は、国宝に指定された作品。

上村松園は《序の舞》で能を踊る女性を「理想の女性」だと言いました。

女性の職業画家として成功した上村松園は、異性の画家から数々の嫉妬と嫌がらせを受けましたが、それに汚されない理想の女性を描いたのです。

松園の作品は美人画が多く、女性をテーマにしているほか、江戸時代の浮世絵をもとに制作されたといいます。

実際に浮世絵からポーズや構図を作品に転用したり、浮世絵のたくさんのスケッチも残されています。

浮世絵と日本画の融合、女性だからこそ描ける清らかな美人画を制作した松園の作品をチェックしてみましょう。


5位 尾形光琳を知る

尾形光琳は江戸時代中期の日本画家。

光琳を代表するのはなんといっても金碧障壁画光琳波と呼ばれる幾何学的な紋様です。

西洋美術におけるジャポニズムのひとつにもなり、光琳の影響はクリムト《接吻》などの作品によく現れています。

光琳の《燕子花図屏風》は、光琳の特徴がよくわかる作品です。

一面に貼り付けられた金箔を背景に、燕子花が美しく並び、デザイン的です。

《紅白梅図屏風》も非常に有名な作品。

光琳の晩年の作品である《紅白梅図屏風》は、梅の老木と若い木、金の大地に黒い川など、対照的に描かれています。

黒い川はもともと銀箔で描かれており、経年劣化で黒くなることが想定されていたと言います。

川には光琳波と呼ばれる幾何学模様が描かれています。

染織工芸の家系に生まれた光琳は、俵屋宗達琳派の表現を受け継ぎ、デザイン的に昇華させたと考えられます。

光琳のデザイン的な絵画をしっかりご覧ください。


5位 狩野永徳を知る

狩野永徳は安土桃山時代から江戸時代初期に活躍した日本画家。

先述した長谷川等伯と対立したことでも有名です。

狩野派の四代目として受け継いだ永徳の実力は、歴代で一番素晴らしいもので、織田信長や豊臣秀吉に贔屓されました。

永徳の代表作に《檜図屏風》があります。

檜とは思えないうねりと巨木のダイナミックさが演出されており、教科書にも使用される有名な作品です。

一方で《洛中洛外図屏風》の街の風景など、非常に繊細な作品も残っており、永徳の技量の高さが伺えます。

永徳が活躍した狩野派と呼ばれる日本美術の潮流は、江戸時代まで約400年も続きました。

世界でもあまり見られない長さです。

狩野派は豊臣秀吉以外に徳川家や朝廷にも狩野派の画家をつけ、生き残れるように戦略を立てていたのです。

永徳によって確立された狩野派の絵画を見て、その潮流を他の絵画から見出しても面白そうです。


5位 源氏物語絵巻を知る

源氏物語絵巻は、国宝に指定されている絵巻物です。

紫式部源氏物語を成立させてから約150年後に制作された、日本で最も古い絵巻物です

作者は藤原隆能など、諸説ありますがはっきりしておらず、何人かが共同で制作をしたと考えられています。

おそらく源氏物語の全編を絵巻物にしたはずですが、現存しているのは4巻分です。

美術鑑賞本で、源氏物語絵巻が注目すべき絵画に選ばれた理由は主に2つあります。

1つは、源氏物語絵巻によって、当時の絵師が使用していた画材が明らかになった点。 岩絵具のほか、白粉や染料など、柔軟に画材を使用していたことがわかります。

もうひとつは日本独自の国風文化が見られる点。

源氏物語絵巻は、登場人物が「引目鉤鼻」に描かれ、自然や風俗がやわらかな線で描かれています。

かな文字で描かれた源氏物語の書き写しも、それらを引き立てています。

画材と国風文化、両方を意識して源氏物語絵巻を鑑賞してみると、日本絵画の鑑賞の理解が深まります。


5位 円山応挙を知る

円山応挙は江戸時代中期の日本画家。

京都を中心に活躍しました。

狩野派から絵を学び、中国画や西洋絵画も独学しました。

応挙は写生を大事にした画家で、写生作品で展覧会が行われるほど多く残しています。

また、眼鏡絵と呼ばれる技法に挑戦しています。

眼鏡絵は凸レンズ眼鏡を通して見ると立体的に見えるおもちゃのような絵です。

応挙はリアリティの追求のために、西洋絵画の一点透視図法を取り入れたいと考えていたようです。

《犬兒図》と言う作品では、応挙の写生の成果が表れており、可愛らしい子犬が薄墨で描かれています。

《松に孔雀図襖》では、墨汁に色を混ぜて木や孔雀を描き分け、墨汁であってもリアリティを求めて描く工夫がなされました。

応挙の弟子たちは円山派、四条派などに分岐して応挙の技を受け継ぎました。

四条派は、のちに竹内栖鳳上村松園を生み出した京都の大きな流派となります。

応挙の作品を知れば、写生やリアリティを目指す描写が、いかに受け継がれているか理解できる一つの手段となるでしょう。


3.日本美術編は、画家たちの表現が深く影響しあう結果に

日本美術編では、画家の名前が多くランクインしました。

1位の伊藤若冲日本画家、同率1位の葛飾北斎浮世絵師

伊藤若冲と葛飾北斎の作品を覚えておくだけでも、日本絵画の特徴が理解できそうですね。

また、ランクインした画家たちが、表現の面で相互に影響しあっていることがわかります。

ランクインした画家の絵をしっかりと鑑賞し、今後の美術鑑賞に活かして頂けると幸いです。

次回は現代美術編のランキングをご紹介します。


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