美術鑑賞本10冊を読んでわかった、絵画の見方ランキング
【Part.4】現代美術編
「美術鑑賞本10冊を読んでわかった、絵画の見方ランキング」では、美術鑑賞の本10冊の重複するポイントをまとめ、美術鑑賞する前、西洋美術、日本美術、現代美術の4つのパートにわけてご紹介します。記事を通して、絵画を見る時、どのようなポイントに注目したら良いのか、どのように行うとわかりやすいのかをご紹介します。
美術鑑賞本10冊を読んでわかった、絵画の見方ランキング
- Part.1 美術鑑賞するまえに知っておきたいポイント13選
- Part.2 西洋美術編
- Part.3 日本美術編
- Part.4 現代美術編
この記事では、美術鑑賞本10冊を読んでわかった絵画の見方のポイントをランキング形式でご紹介します。
PART.4では現代美術の絵画の見方をまとめました。
1.現代美術の鑑賞のポイントをご紹介
絵画の見方ランキングの記事も、最後になりました。
最後になる今回の記事は現代美術の見方です。
現代美術の見方をランキング形式でご紹介します。
2.絵画の見方ランキング 現代美術編
1位 マルセル・デュシャンを知る 4票
2位 ポップ・アートを知る 3票
2位 アンディ・ウォーホルを知る 3票
2位 ディスクリプションする 3票
2位 作品の色遣いに目をつける 3票
2位 顧客の気持ちになる 3票
7位 モダニズムを知る 2票
7位 ジェフ・クーンズを知る 2票
7位 ジョセフ・コスースを知る 2票
7位 ジャクソン・ポロックを知る 2票
7位 作品の筆致に目をつける 2票
7位 日本のアヴァンギャルドを知る 2票
マルセル・デュシャンを知る
マルセル・デュシャンはフランス生まれのアーティスト。
ダダイズムを代表します。
ダダイズムとは、ざっくり言うと既成の概念を破壊することを目的とした美術を指す様式のこと。
デュシャンは誰でも出品できる展覧会「アンデパンダン展」に既製品の便器を提出しました。
この便器は《泉》と題され、ただ逆さまになってサインされているだけです。
《泉》のどこか美術作品なのか?と誰もが感じるでしょう。
デュシャンは《泉》を使って工業製品すら美術作品になりうるのでは、と問題提起の実験をしました。
「いずれにしても便器は、本来の使用目的(有用性)から離れ、別の意味を担うことによってひとつの表現となりえている。このことは、つまりモノ本来の使用価値とは直接関係のない意味生成の記号となっているということであり、消費社会における商品のあり方を示している」
出典:田中正之編『現代アート10講』2017年、武蔵野美術大学出版局、p.14-15
《泉》がきっかけとなり、工業製品などの既製品はレディ・メイドと呼ばれ、現代アートで繰り返し使用される素材の一つになります。
また、デュシャンは言葉遊びも得意で、《泉》と女性の裸を連想させるメモが残されたり、その後の作品ではタイトルで遊んでみたりしています。
デュシャンの言葉遊びを調べてみても面白いでしょう。
2位 ポップ・アートを知る
ポップ・アートとは、1960年代のアメリカで流行した美術運動の一つです。
中心となったアーティストはロイ・リキテンスタインや、後述するアンディ・ウォーホル。
彼らが有名になったのは、大量生産されたモノや、大衆娯楽を切り取ったスタイル。
アンディ・ウォーホルは大量生産されたコーラやキャンベルスープの写真をいくつも並べた作品を制作。
ロイ・リキテンスタインはコミックの一場面を油絵で大きく描きました。
ポップ・アートの手法はその後広告に応用されるようになりました。
1960年代はポップ・アートによって時代が作られたと言っても過言ではないでしょう。
彼らの作品は今見ても真新しく感じます。
2位 アンディ・ウォーホルを知る
アンディ・ウォーホルはニューヨークで活躍したアーティスト。
ポップ・アートを誕生させました。
日本では1980年代にTDK株式会社のビデオテープ(VHR)のCMにも出演していました。
元々広告デザイナーをしていたウォーホルは、デザイン業界でも賞を受賞する実力派。
しかしデザイン業界に苦悩し、芸術の道へと進みました。
シルクスクリーンによる転写の技法を身につけ、キャンバスにキャンベルスープ缶を描いた《キャンベルのスープ缶》で一躍有名となります。
その後もマリリン・モンローやケネディ大統領の写真をシルクスクリーンで転写する作品を発表します。
ウォーホルの作品の特徴は大量生産されたものを描くこと。
もう一つは自分で撮った写真ではなく、広告や映画などの大衆娯楽の一場面を切り取っていることです。
ウォーホルはこう語ります。
「僕を知りたければ作品の表面だけを見てください。裏側には何もありません」
出所:ウィキペディア「アンディ・ウォーホル」記事
自身の作品には大量生産されたものと同じく、裏側には何もないと言い切っています。
2位 ディスクリプションする
PART1でランクインした「ディスクリプションする」が現代美術編にもランクインしました。
美術にはこうした背景があるとみなされる多くの作品がありますが、実際のところ正解はありません。
特に現代美術は見る人によって様々な読み方が存在します。
近年ではこうした正解のない現代美術を使用した美術鑑賞教育も行われています。
現代美術の美術鑑賞教育では、現代美術を鑑賞し、「この絵の中で何が起こっているのか」を考え、自分の考えを説明し、話し合うのです。
感想をディスクリプションすることによって多くの気づきや批判的な思考力を身につけることができます。
ディスクリプションの能力は直接美術鑑賞に生かされるだけではなく、私たちの日常にも結びつく能力です。
そう考えると、「ディスクリプションする」が現代美術編にランクインしたのは、現代美術は私たちの日常に迫り、ヒントを与えてくれるものなのかもしれません。
2位 作品の色遣いに目をつける
現代美術編での「作品の色遣いに目をつける」は、絵画の絵の具を知ることと似ているかもしれません。
水で溶ける染料が進化し、現在では水彩画も可能となりました。
水彩画は水が蒸発して乾く分、質量が変わりますし、少し発色が薄くなります。
そのため、水彩画は乾いた後どのような色になるのか推測する必要があります。
油彩などで使用する顔料は、油や卵などの展色材が必要になります。
顔料が固まるのが遅い分、質量も変わらず、思ったままの色がそのまま残ります。
水彩画も油彩画も、それなりの労力を使う道具です。
作品の色遣いは、作者がどれだけ作品に向き合ったのかわかる一つの証左となるのです。
ウォーホルのシルクスクリーン作品も、配色によって好まれてる部分は大きいでしょう。
2位 顧客の気持ちになる
現代の美術のマーケットは主にギャラリーとオークションです。
ギャラリーではアーティストが個展をひらき、画廊主の間で作品の値段を決め、売れた場合は5〜6割を画廊に支払います。
ギャラリーで売れた美術作品がもし再度売られる場合、二次的な市場であるオークションで落札され、個人蔵になります。
そのためコレクターはコレクションを行う以外に、再度売る場合も考えて購入することになります。
この現代美術の市場に、美術批評家が台頭してきます。
例えば、後述するジャクソン・ポロックを理論的に支えたのは批評家のクレメント・グリーンバーグ。
グリーンバーグが絶賛し、ポロックは一大有名なアーティストとなりました。
作品の良さを客観的に批評する存在によって、美術の価値も変わって行ったと考えられます。
7位 モダニズムを知る
モダニズムは「近代的な」という意味がありますが、芸術分野においては20世紀に起こった動向を指します。
絵画は伝統的な概念を取り払い、前衛的な表現を目指しました。
始祖は印象派のモネに遡りますが、パウル・クレーやラファエル前派、写実主義など、絵画の表現を更新しようとしていきます。
デザインの分野ではバウハウスの誕生がありました。
バウハウスとは、体系付けた美術教育を行った教育機関のことです。
バウハウスは洗練された「モダン」なデザインや建築を研究し、モダニズムを一気に推し進めました。
また、バウハウスが行った教育はのちの美術教育の基礎となりました。
こうしたモダニズムは1970年代後半からは衰退していき、「ポスト・モダニズム」と呼ばれる時代へと変化していきます。
7位 ジェフ・クーンズを知る
ジェフ・クーンズはアメリカ生まれの現役で活躍するアーティストです。
有名な作品は「セレブレーション」シリーズの《バルーン・ドッグ》。
風船で作られた犬をモチーフに作られた彫刻作品で、素材は磁器もしくはアルミニウムやステンレスでできています。
つい先日(2023年2月)、マイアミのギャラリーで《バルーン・ドッグ》が壊れたことがニュースにもなりましたね。
他にも《パピー》という、キャラクターのような子犬の大きな生垣作品や、水槽に浮かぶバスケットボールの「平衡」シリーズがあります。
クーンズの作品のキーワードは「キッチュ」です。
キッチュとは直訳すると陳腐、俗物という意味。
まるで量販店に売られているおもちゃのような作品を極め、制作しています。
ポップ・アートやレディ・メイドの後継者とも言えるでしょう。
現在、クーンズは2001年から続く「イージーファン=イーサリアル」シリーズを手がけており、ますます目が離せないアーティストとなっています。
7位 ジョセフ・コスースを知る
ジョセフ・コスースはオハイオ州出身の現代美術家。
コンセプチュアル・アートの第一人者です。
コンセプチュアル・アートとは、アイディアやコンセプトを作品の構成要素の中心にした美術の動向のこと。
コスースの作品もまたコンセプトが重視されています。
コスースの代表作は《一つのそして三つの椅子》。
椅子を撮った写真、既製品の木の椅子と、辞書の「椅子」の項目の文章を印刷した紙が並ぶ作品です。
それぞれの媒体、実在する椅子は一つしかありませんが、結果的に三つの椅子が揃っていますね。
プラトンの洞窟に映る影という有名なイデア理論を想起させるコンセプトになっています。
関東にある有名なコスースの作品は、みなとみらい駅直結の横浜クイーンズスクエアにある《The Boundries of the limitless》。
フリードリヒ・フォン・シラーの詩が刻まれています。
もうひとつは、立川市のファーレ立川にある《呪文、ノエマのために》。
こちらは石牟礼道子の『椿の海の記』とジェームズ・ジョイスの『若い芸術家の肖像』の文が引用され、刻まれています。
コスースの作品をご覧になるとわかるかと思いますが、視覚的にもちゃんと面白さを追求しています。
コスースの作品にはコンセプトだけでなく、視覚的に人を惹きつける魅力があります。
7位 ジャクソン・ポロックを知る
ジャクソン・ポロックはアメリカで活躍した、抽象表現主義を代表するアーティストです。
抽象表現主義は、特徴として大きなキャンバスにオールオーバーとよばれる上下のない画面構成を施し、制作過程を重視した絵画です。
ポロックはアクション・ペインティングと呼ばれるパフォーマンスに近い絵画制作を行いました。
巨大なキャンパスに刷毛やコテで車の塗料を垂らし、作品としました。
ただ塗料を垂らしているだけのように見えますが、ポロックは意図して塗料の軌跡を作っており、そのデザイン性にも目を引くものがあります。
代表作は《ナンバー31,1950》。
夏から秋にかけて制作されたこの作品は、ベージュの下地に黒・白・茶色・緑の塗料の跡がついています。
色彩構成、オールオーバーな構成はポロックの美的センスの良さがよく理解できます。
先述したように、ポロックのアクション・ペインティングはグリーンバーグの美術批評によって絶賛されたことによる後ろ盾もあり、1960年代には非常に人気の作家となりました。
こうしたポロックのアクション・ペインティングはスパッタリングという技法で簡易的にすることもできます。
機会があればぜひ試してみてはいかがでしょうか。
7位 作品の絵肌を見る
油絵では作品の筆致が残りやすいので、この特性を利用し、印象派以降のアーティストは絵肌へのこだわりが見られます。
この絵肌はマチエールと呼ばれます。
ジャスパー・ジョーンズは顔料に蝋を混ぜ、マチエールを演出しています。
ポロックの作品も、塗料の軌跡によってマチエールがよくわかります。
逆にマットなウォーホルの作品は、非常にクールに感じられます。
具体的な何かを描いたわけではない抽象的な絵画でも、マチエールにはアーティストがみなこだわっていたことがわかります。
現代美術における絵画の絵肌には注意してみてみましょう。
7位 日本のアヴァンギャルドを知る
外国のアーティストの記事ばかりになりそうでしたが、ここでやっと日本のアヴァンギャルドなアーティストのお話ができます。
日本のアヴァンギャルドで有名な美術動向は2つあります。
それは反芸術と、具体派美術協会です。
反芸術はダダイズムの影響を受けた美術動向です。
日用品、印刷物、ガラクタ、廃物を用いた作品が多く、1960年代に隆盛を極めました。
具体派美術協会は1950〜1960年代に結成されたアーティスト集団で、足で泥をこねたり、電気バルブによるドレスを身に纏ったりと、伝統的なアートの境界を模索しました。
具体とは「精神が自由であることの具体的な証明」から名付けられた言葉です。
近年では村上隆一、会田誠といった日本のアニメ・オタク文化を取り入れたアーティストや、
パフォーマンスアーティスト集団のChim↑Pomが世界で活躍しています。
日本のアヴァンギャルドがどのように現代日本に受け継がれているのかを知ると鑑賞も深く味わうことができます。
3.終わりに
いかがでしょうか。
現代美術編にランクインしたアーティストもポイントも、今までご紹介した記事とは一線を画していることがよくわかります。
デュシャンの《泉》が先頭に来たように、美術=絵画という概念は取り払われています。
もちろん現代美術にも絵画もございますが、印象派から考えると非常に変化しました。
また、ウォーホルやポロックの活躍でわかるように、美術の舞台がフランスやイタリアからアメリカのニューヨークへと移動したことも特徴です。
もちろん日本でも如実に影響を受けて、アヴァンギャルドの美術動向の道ができていきました。
現代美術のアーティストや美術動向を知ると、さらに世界が広がったように感じますね。
美術鑑賞の記事も今回で最後となりました。
記事を通して、今後の美術鑑賞に生かして頂けると幸いです。
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