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世阿弥と能について知ろう

【PART.1】ビジネスに生かせる世阿弥の言葉4選



世阿弥と能について知ろう」シリーズでは、能という舞台芸術の創始者である世阿弥に焦点を当て、世阿弥の著作の中から現代でも生かせる言葉や、世阿弥の生涯、能の歴史、能の鑑賞、世阿弥と能に関する本についてご紹介します。

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この記事では、世阿弥の著作の中から現代でも生かせる言葉を4選紹介します。 世阿弥が能という演劇を作った人物である紹介とともに、有名な「秘すれば花」をはじめとした四つの言葉を案内し、ビジネスや現代に生かせるポイントがわかります。

1. 能を作った世阿弥が残した言葉は現代でも生かせるものばかり


みなさんは、能という日本伝統の芸能をご存知でしょうか。

能は室町時代の演劇師である観阿弥世阿弥の親子が生み出した演劇の一つです。

特に、観阿弥から引き継ぎ、能を完成させた世阿弥は、能の脚本だけではなく、数々の著作を残しています。

世阿弥の著作の内容は、能をはじめとした演劇に対する独自の評論。 世阿弥が残した著作に現れる鋭い批評の目は、現代でも生かせるものばかりです。

今回の記事は、世阿弥の言葉の中から特に有名で、なおかつ現代生活やビジネスでも活用できる言葉をご紹介します。

1-1. 能とは、人間の哀しみや懐旧をテーマにした日本伝統の演劇

能とは、猿楽とも呼ばれる日本の伝統的な演劇の一つです。

能という言葉は明治以降使用される名称で、江戸時代までは猿楽と呼ばれていました。

能の特徴として、人間の哀しみや懐旧、恋慕といったテーマを扱います。

主役はシテと呼ばれ、人間のみならず精霊や幽霊、神などの役を一人の人物が演じきります。 能面をつけるのはシテだけに与えられた権利です。

シテに対応する役はワキといい、こちらも多種多様な役を演じますが、面をつけることはありません。

1-2. 世阿弥は室町時代の能の創始者

世阿弥は室町時代の猿楽師

父の観阿弥が発足した大和猿楽結崎座に属し、猿楽を演じていました。

室町将軍足利義満が観阿弥と世阿弥親子の演技を観劇して気に入り、寵愛されるようになります。

足利義満の好みは「幽玄」という言葉に表されるような演目でした。 そのため、世阿弥は足利義満をはじめとした観客の喜ぶよう能の技術を深め、「夢幻能」と呼ばれる形式を作り上げます。

世阿弥の作った夢幻能は、霊と人間が出演することによってあの世とこの世が交錯する特徴があります。 世阿弥の詳細な生涯については、次回以降の記事で取り扱います。

それでは、世阿弥が残した現代でも生かせる言葉をご紹介します。

2. 「秘すれば花」世阿弥『風姿花伝』より


秘すれば花」は、普段隠している技をいざという時に使うことを指します。

一番有名な世阿弥の言葉ではないでしょうか。

「秘する花を知ること。秘すれば花なり、秘せずは花なるべからずとなり。」

出所:https://www.koten.net/kaden/gen/706/

直訳すると、「秘密にして隠すから花となる、隠さないと花にはならない」という意味です。

花という言葉をどのように解釈するかが問題ですが、世阿弥の「人の心に思ひも寄らぬ感を催す手立、これ花なり。」という文章があるため、意外性を指す言葉だと考えられます。

「つまり、花とは「人の心に意外性を感じさせる手段」のことを言います。」

出典:齋藤孝『型破りの発想力』2017年、祥伝社、p.50

秘密にして隠すことで人の心に意外性を感じさせる手段になるということですね。

「秘すれば花」を現代に置き換えるとどうでしょうか。
手品などのタネ、推理小説のトリックなど、創作物に当てはまりますね。

ビジネスではどうでしょうか。
例えば、活発に動いて回る営業マンが、実はパソコンが得意で、緻密なデザインをいざという時すぐ修正してくれると、顧客は頼り甲斐があると感じます。

自分の技はいざという時に使い、機会が来るその時までとっておく。 現代でも活かせる名言です。

3. 「離見の見」世阿弥『花鏡』より

離見の見」は、客観的な視点のことを指します。

「見所より見る所の風姿は、我が離見なり。しかれば、我が眼の見る所は、我見なり。離見の見にはあらず。離見の見にて見る所は、則ち、見所同心の見なり。その時は、我が姿を見得するなり。」

出所:https://dcp.co.jp/meikaits/?p=314

この引用には三つの視点が書かれています。

離見は見所、現代で言う客席から能を見る観客視点のこと。
我見とは、能の役者の主観、一人称視点という意味を指します。
そして、「離見の見」は、能の役者が、見所にいる観客と心を同じくするとあります。

観客と同じ視点に立つ離見の見を会得することで、役者は自らの本当の姿を見ることができると主張しているのです。

現代では機械が発達し、自分の姿を見返そうと思えば可能ですが、室町時代となると鏡以外は不可能に近いです。

世阿弥の離見の見という客観的視点は、当時かなり画期的な見方の発明だったと言えます。

離見の見をビジネスに置き換えるとどうでしょうか。
ジャパネットたかたの創業者である髙田明氏は、離見の見についてこう述べています。

「通販番組の放送中、直接お客様の姿を目にすることはできないので、想像力を膨らませるには場数を重ねるしかない。自分では上手く伝わったと思っても結果が出ないのは離見の見が不十分だったから。何度も失敗を重ねながら離見の見を磨いていくのです。」

出典:髙田明『髙田明と読む世阿弥』日経BP社、2018年、p.95

髙田氏は、離見の見によって、お客様の視点に立ち、どう受け取られているか模索していったのですね。

観客や顧客の視点に立つ離見の見により、自らをフィードバックしていくこと。 ぜひ、応用していきたい視点です。

4. 「初心忘るべからず」世阿弥『花鏡』より


「初心忘るべからず」は、芸の積み重ねを忘れてはならないという意味。

ことわざの一つにもなっています。 ことわざとしては「物事を始めた頃の気持ちで取り組め」という意味合いが強いですが、世阿弥の真意としては少々違っているようです。

「しかれば当流に万能一徳の一句あり。初心忘るべからず。この句、三ヶ条の口伝あり。
是非とも初心忘るべからず。
時々の初心忘るべからず。
老後の初心忘るべからず。
この三、よくよく口伝すべし。」

出所:http://yamazakinomen.mizutadojo.com/zeami.html

世阿弥の言う「初心」は、「芸の未熟さ」を指します。

三ヶ条には、時々、老後など、その時代の自分の芸の未熟さを忘れるなとあります。 つまり、初心忘るべからずとは、ライフステージごとに己の芸の未熟さを忘れず、芸の積み重ねを忘れるなという意味なのです。

世阿弥の生きた室町時代よりも、人々の寿命が格段に違い、人生100年と言われる時代となった現代では、仕事や趣味をする時間も格段に増えました。

いくつになっても、時代に合わせ、自分を省みて特技を増やしたり高めたりしていけることは必ず強みになります。 「初心忘るべからず」はいつの時代にも応用できる格言です。

5. 「男時・女時」世阿弥『風姿花伝』より

「男時(おどき)・女時(めどき)」とは、流れの勢いを見計らう意味の言葉です。

脚本家の向田邦子による「男どき・女どき」というドラマで有名になったこの言葉。 世阿弥は引用のように解説しています。

「時の間にも、男時・女時とてあるべし。いかにすれども、能にも、よき時あれば、かならず悪き事またあるべし。これ、力無き因果なり。」

出所:https://www.koten.net/kaden/gen/707/

男時とは、物事が上手くいっている・勢いがある時の流れを指します。 反対に、女時は、何をやっても上手くいかない流れの時を指します。

世阿弥はこうした男時・女時を「力無き因果」と呼び、どうすることもできないと説いているのです。 だからこそ、世阿弥は男時の流れに乗ることが重要だと主張。

「これ時の間の因果の二神にてましませば両方へ移り変り移り変りて、またわが方の時分になる、と思わんときにたのみたる能をすべし」

出所:https://www.koten.net/kaden/gen/707/

岡三証券グループ代表取締役会長の加藤精一氏は、この男時・女時についてこう語っています。

「私自身大事に引用してきた言葉の中に世阿弥の「男時・女時」があります。(…)相場の世界でも「女時」には市場に敬意を表して冷静に対峙し、「男時」には勇気を持ってしっかりと買いあるいは一気に売ることが重要です。」

出典:山中玲子監修『世阿弥のことば100選』2013年、檜書店、p.56

女時の流れには大人しく、男時の流れには一気に勝負に出る。 能の競争で悟った世阿弥の考え方は、ビジネスにおいても重要です。

6. 世阿弥の言葉はビジネス書のマインドセットが思い起こされる

世阿弥の残した言葉4選はいかがでしょうか。

人の心に訴える仕草や、視点を変えたり、場の流れを読み取ったり……。 どこかビジネス書で解説されるマインドセットを彷彿とさせます。

世阿弥の功績が能として継承されているからこそ、説得力のある言葉になっています。 みなさんの生活や、ビジネスにおけるヒントになると幸いです。

次回は、世阿弥の生涯についてご紹介します。

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